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第1回 ロンドン・タウンハウスホテルの魅力

「朝食の卵はどのようにされますか。ボイルで、それともスクランブル?」
初夏の爽やかな光が射し込む、小さなホテルの朝食の間。若いウェイターの英国的アクセントが、彼の手で注がれるモーニング・ティーの香気とまろやかに溶けあう。ロンドンに居るのだな、と実感するのは、たとえばこんな時だ。周囲のテーブルには、フランスやアメリカからの旅人の姿。窓越しに、二階建てバスが鮮やかなレッド・カラーをふりまいて通り過ぎていく。
刺激的な街ロンドンを堪能するためにも、ゆったりとした気分で一日を始めたい。鷹揚な古き良き英国の雰囲気が「ザ・ゲインズボローホテル」にはある。

18世紀の英国を代表する画家の名を冠したこのホテルは、サウス・ケンジントンの高級住宅街にすっかり溶け込んでいる。見落としてしまいそうな真鍮のプレートが、かろうじてホテルとしての目印になるという控えめさで、さながらロンドンの隠れ家のように見える。かつてこの国の貴族たちは、自分が統治している地方に贅を尽くした屋敷を建て、そこを拠点としていたが、首都ロンドンにも社交などで滞在するためにこぢんまりとした家− タウンハウス −を持っていた。そのようなかつての貴族の家を、雅びな佇まいはそのままに快適なホテルに改築したのが「タウンハウスホテル」と称されるのだ。

ここには私たち異邦人が思い描く伝統的な英国がある。たとえば鉄製の引き戸がついたクラシックなエレベーター。乗降にコツがいるほどのしろものだが、味のある「設備」でもある。40を数える客室は、各部屋ごとに異なるがしかし、トラディショナルな英国のインテリアでしつらえてある。その一方で、新しい時代に迎合することも忘れない。インターネットを使ったアピールやEメールでの予約システムなど、柔軟性と価値観だけは上手く現代風にアレンジしてある。

「プレートが熱いですから、気をつけて」の言葉とともに、目の前に供されたのはフルイングリッシュブレックファースト。卵料理、ベーコン、豆の煮込みにベイクド・トマト。どれも熱々の湯気をたてている。今ではホテルで出されることが珍しくなった英国式の朝食である。ここはひとつ、何事にも慌てない英国気質を気取って優雅に食そう。そして今日のスケジュールを思い巡らしながら、異国での一日をゆったりと始めてみるのも、悪くはない。
− 了 −

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