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第2回 旅先で髪型を変える勇気

乾いた空気に、ふっと香るパフューム。その主張のつよさに思わず視線を向けると、カットのよいジャケットに身を包み、颯爽とメイフェアの雑踏に消えてゆく若い女性。あるいは、最近ロンドンでも急激に増えてきたカフェ・スタンドの窓際で、カプチーノを片手に読書中のシティのビジネスマン。ふと目にとまった彼らは、思わず見とれてしまうほど粋だったり、絵になっている。街並みや歴史的遺産が旅の「メインディッシュ」だったはずなのに、なぜかそこでの生活に、人間に惹かれてしまう。けれど、彼らに目を奪われたあと、旅行者然とした自分の姿をショーウィンドウのガラスにみつけてがっかり…そんな経験はきっと誰にでもあるはず。「旅先なのだから、目立たないようにこんな格好でも仕方ない」と自分へのエクスキューズを胸のうちで呟いたりして。

それでも、すてきな風景や街並みに身を置いているのだから少しは洒落てみたいものだ。
あまりに華美ないでたちは確かに危険を招くかもしれない。けれど、ヘアサロンで髪型を変えるというのはどうだろう?ロンドンはヘアメイクの流行最先端の都市だ。ヴィダル・サスーン、トニー&ガイなど世界に名だたるサロンを生み出してきた。日本からもたくさんのヘアメイクアーティストがこの街で腕を磨くべくやってくる。 そんなロンドンの街を歩いていると、若者が集まるコヴェント・ガーデンやキングスロードあたりでシックなヘアサロンをみつけることができる。たいてい路面店なので、店内の様子や雰囲気をみて、気に入ったら思い切ってドアを開けてみよう。そのとき手のあいているスタイリストがいれば、すぐに担当してもらえるかもしれない。

私が試したのは、ロンドンの中心から少し離れた住宅地にある、こぢんまりとしたヘアサロン。スタイリストは、30代くらいの女性。むぞうさにまとめた金髪に白いシャツがさわやかだ。店に置いてあるカタログの写真をみながら、ストレートロングの髪にゆるくウェーブをかけたいと伝えると、彼女は私の髪をちょっとつまんでみて「あなたの髪質には、ここのパーマ液はきつすぎてせっかくの髪が傷んでしまうかもしれない。今日はカットだけで雰囲気を変えてみたら?」とのアドバイスをくれた。そこは素直に聞き入れることにして、シャンプー台に案内してもらう。シャンプーの担当は、若いイタリア人の男性だ。「ここでのカットははじめて?」「そう、ちょっと緊張ぎみ!」などと会話しながら、フルーティなシャンプーの香りに包まれていく。
すっきりと洗ってもらったら、いよいよカット開始。大きな鏡の前で、スタイリストが髪にハサミを入れる。西洋人のやわらかな髪と、日本人のまっすぐでコシのある髪質はだいぶ違うわね、とスタイリストは慎重だ。こちらも普段なら雑誌なんかを読みながらおまかせしてしまうのに、気がつくと鏡の中の自分をみつめっぱなしだ。それでも手際よく毛先をそろえてもらい、無事に終了。仕上がりも丁寧で満足だ。

支払いをすませて、店を後にする。変えたばかりのヘアスタイルで、街に出よう。午後の風がさらさらと髪を撫でてゆく。すれちがう人たちに、ちょっと自慢したい気分。外国で初めて美容院に行った、それだけで街との距離がぐんと縮まったような気がするのが不思議だ。
気がつくと背をすくっとのばして、石畳の上を颯爽と歩いている自分がいる。

-了- 

料金は、女性と男性・髪の長さ・スタイリストのレベルによって上下するのが一般的。
シャンプー&ヘアセットのみのコースがあるサロンも。
女性の場合:シャンプー&カットで平均25〜30ポンド(約4500円〜6000円)


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